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大阪高等裁判所 平成4年(行コ)37号 判決 1993年5月13日

控訴人

久保惠三郎

本田コト

河合俊三

平林聖

林正男

釘本輝子

田中憲

右七名訴訟代理人弁護士

松本健男

大川一夫

被控訴人

大阪市長

西尾正也

大阪市

右代表者市長

西尾正也

右両名訴訟代理人弁護士

松浦武

右訴訟復代理人弁護士

福居和廣

主文

一  本件各控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の申立

控訴人らは、「原判決中、控訴人らに関する部分を取り消す。被控訴人大阪市長が平成元年一〇月二〇日付でしたアーバンライフ株式会社の原判決添付物件目録記載の建物の建築許可申請に対する建築基準法五九条の二に基づく許可処分を取り消す。被控訴人大阪市は、控訴人ら各自に対し、一〇〇万円宛支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは主文同旨の判決を求めた。

第二事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」欄の記載のうち、控訴人らに関する部分の記載と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一二頁五行目から六行目にかけての「Si'」を「敷地の各辺の中点から一二メートル外側にある点(以下「Oi点」という)を通る鉛直線の各点を視点とした立面投影面積(以下「Si'」という)」と、同行の「Si」を「各辺において、法五六条一項一号及び二号の規定によって許容される最大の立面投影面積(以下「Si」という)」とそれぞれ改める。

2  同一九頁八行目の「この場合において」から同二〇頁初行の「とする。」までを削除する。

第三当裁判所の判断

一争点に対する当裁判所の判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第三争点に対する判断」欄の記載のうち、控訴人らに関する部分の記載と同一であるから、これを引用する。

1  原判決二二頁末行の「原告らが」を「控訴人らが、」と、同二四頁一〇行目及び同二五頁六行目の各「北西側」をいずれも「南西側」と、同二九頁五行目の「争いがないから」を「争いがなく、乙四号証によれば、本件土地上の公開空地は有効面積が246.55平方メートル、実面積が215.92平方メートルであることが認められるから」とそれぞれ改める。

2  同三五頁初行冒頭から同六行目末尾までを次のとおり改める。

「これに対し、控訴人らは、斜線制限の緩和に関し、控訴人らの居宅に、日照、採光等について、現実に著しい被害が発生する本件においては、抽象的な基準点(Oi)を想定して、計画建築物の境界線への立面投影面積(Si')と法五六条によって許容される境界線への最大立面投影面積(Si)を比較しても、許可の可否の合理的な基準足りえない旨主張する。

しかしながら、多数ある総合設計許可申請の許可の可否を公平に決するためには、天空光の量を判断するについて画一的な基準点を設けるのは必要且つ合理的な方法であると考えられること、敷地各辺の境界線上の鉛直面(スクリーン)における計画建物の立面投影面積と、法五六条の規定によった場合に許容される最大の立面投影面積の比較結果は、その性質上、その視点の位置によって大きな差をもたらすものではない(立面投影面積は、視点がスクリーンに近づけば小さくなり、離れれば大きくなって、壁面の実面積に限り無く近づくが、その割合は、計画建物の場合も法五六条の規定によった場合に許容される最大の立面投影面積をもたらす建物の場合も同一である)し、実施基準による基準点の設け方に特段の不合理な点は認められないこと等に鑑みると、OiからのSiとSi'の比較結果を斜線制限の緩和の要件と定める実施基準の合理性を否定する理由はなく、控訴人らの右主張は採用の限りでない。」

3  同三五頁末行から同三六頁初行にかけての「主張するが」から同六行目末尾までを次のとおり改める。

「主張する。しかしながら、右規定(実施基準第1の1の(4)の③)は、商業地域の内外を問わず、総合設計制度を利用する建物すべてに適用されるものであるが、日影については法五六条の二で、採光については斜線制限の緩和の要件の中でそれぞれ規制がなされていて、これらを満たす建物について、更に隣地の日影や採光を理由に隣地境界線からの後退を求める理由はないこと、被控訴人大阪市が策定した『大阪市総合設計許可取扱要綱実施基準の解説』の(1)の①のエによると、実施基準の右規定につき、特に共同住宅については、隣地境界線からの建物の後退距離について、『バルコニーの先端から五メートルを標準として指導している』旨記載されていることが認められるが(<書証番号略>)、特に共同住宅について他の建物以上の後退を求めるのは、落下物による危険防止がその理由であると考えるのが合理的であること、そして右規定の文言にも照らすと、右規定は、落下物による危険を防止することを主眼として、市街地環境の整備改善に資することを目的として設けられたものであり、隣地の日照や採光の確保を直接の目的とするものではないと解せられる。そして、証人平林孝の証言によると、本件建物のドルミ堂島側の窓等には、面格子を施すなどの落下物による危険の防止措置が講じられていることが認められるから、本件建物は右規定の但書が適用が可能な事例であると解せられる。もっとも、被控訴人大阪市長として、但書の「敷地周囲の状況」に控訴人らの日照等の被害を考慮することも可能ではあるが、右のように隣地の採光については他の要件で配慮されるし、本件土地が商業地域内にあり、法の日影規制による日照の保護を受けない地域であることに鑑みれば、右但書を適用した被控訴人大阪市長の判断が違法であるということはできない。」

二よって、控訴人らの本訴請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件各控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、 八九条、 九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山中紀行 裁判官 寺﨑次郎 裁判官 井戸謙一)

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